這いよる違和感

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一限目の中盤。 ふと、何気ない意識で有栖川の席の方を見た。 そこには、先ほどいなかった窓際の席の所有者が座って勉学に励んでいる姿があった。 いつ戻ってきたのか、稜紀にはさっぱりわからなかった。 しかし、いつみても端正な顔立ちであることには変わりなく、勉学に励んでいるその横顔は整っている。 不意に、チャイムが鳴った。 一限目を終了させるチャイムである。 先ほどまで静かだった教室に喧騒が呼び戻る。 きりーつ、礼。 委員長が生徒に号令をかけ、授業の終わりを示した。 授業と、授業の間隔は十分程度である。 それまでに、トイレに行く者や、軽く友人同士で会話する生徒などが大半である。 が、有栖川は違った。 彼女はだいたいは、本らしきものを読んでいた。 曖昧な表現になるのは、実際には何を読んでいるのかわからないから。 誰も覗きこまないし、邪魔しない。 彼女の周りには、独特の空間と空気が空中を浮遊しているのだった。 そんな彼女を横目にしていると、うーん、と伸びた陽一が近づいてきた。 陽一「朝からハードな授業だったぜ。ん?どうした?」 一瞬陽一が近づくのがわからなかったため、返事に遅れた。 いや何もない、と答えても稜紀の目線の方を辿っていくと有栖川に目が止まる。 陽一「ふふーん。さては、有栖川雪奈ちゃんを見ていたなぁ?」 ウザったいしゃべり方で顔を近づけてくる。 陽一「まぁ、確かに彼女を見るのはわかる。うん。顔はかわいいし、大人しいし、大和撫子っぽいしな!」 なぜか、陽一が自慢げに話す。 稜紀「彼女はいつ頃からこの学校にいたんだ?」 何気ない質問でこの場を濁す。 しかし、この何気ない質問が陽一を困らせた。 陽一「ん?確かなぁ…。あれ?いつ頃だっけな?よく覚えてねぇな…」 と、まぁこんな風にど忘れしてしまってたようだ。 が、彼は真剣な顔つきだった。 稜紀「おいおい。そんなに考え込むほどでもないだろ?」 やや呆れながら陽一を諭す。 陽一「お、おうそうだな…。あれ、おかしいな」 頭の上にはきっとクエスチョンマークが出ているに違いない。 時刻はもうすぐ二限目開始に近づいていた。
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