這いよる違和感

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そのあとは、特に何もなく授業はすべて終わってしまった。 担任の教師が、終了の号令を飛ばすと生徒は各自バラバラに散っていく。 普段なら教室で駄弁ったり、放課後はどこかへ遊びに出かけたりするのだが今日の事件のおかげでそういった娯楽に浸ることはできなくなった。 彼らの青春の時間はあっさりと奪われていくのである。 しかし、まだ少し時間は残っている。 完全に下校時間が過ぎているわけでもなく、まだ少しなら教室に残っている時間はあった。 陽一「時間の使い道どうっすかなぁ」 唐突に呟いた。 確かに、今までは時間の過ごしかたは決まっていてこうも困らなかったはずだ。 だが、いきなり手持無沙汰になってしまっては陽一の言っていることには同意せざるを得ない。 楓「そうだね。いきなりこんなのだと困るよね」 意外にも残念そうにしているのは、楓本人だった。 理由は明白。 彼女は、歌手であり友人など遊べる時間など、他の生徒と比べればはるかに少ない。 少しの時間でも友人たちと共有したいと思うのは、心からの本心だろう。 ももか「うわーんもう!はぁあ…」 ももかに至っては、地団太踏んで溜息ばかりである。 元気者の彼女にとっては体力が有り余ってしょうがない。 稜紀「でもまぁ、しょうがない。少しの我慢だ」 三人の気持ちをできる限り汲み取って嗜める。 だなぁ、と陽一ががっくり肩を落としながら言う。 廊下の方からカツカツと、高いヒールの音が響いた。 明らかに生徒のものではなく、時計を見ると早まった下校時刻に差し掛かりつつあった。 ガララと、教室のドアが開いた。 「おい、もう時間だぞ。暗くなる前に帰りなさい」 担任が教室に残っている彼らに注意する。 はーいと女子二人、へーいと陽一、はい、と短く稜紀。 陽一の重い腰が上がったところで、四人は教室を後にした。
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