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閑静な海の上で船が波に合わせて上下にゆれる。遠くに陸が見える。
船員がせわしく働いている。仕掛けていたと思われる網を引き揚げている最中であった。
突然船員が後方の操縦室にに向かって声を上げる。
「船長、網が破られています」
船長と呼ばれた男は操縦室から顔を出す。風で無償髭がなびく。
鈍い音を立て船扉の中から船長が右舷へと近寄る。引き裂かれた様な形跡があった。鮫がかかったようにも見える。
「鮫かもしれん。だがーー」
船長は落ち着いた足取りで船首へ向かう。もやもやと蠢く海を覗き込む。曇天のせいで海中が黒い。
それが因としてなのか魚影が少しも見えない。しかし一瞬だけ白い影が動いた。
「今のは何だ?」
「何ですか今のって?」
「海を見ろ。白いのが泳いでいるぞ」
そう言われ船員が一斉に水面へと顔を向ける。ところが暗い海中には何も見当たらない。
最初に覗くのを止めた船員が口を溢す。
「何も無いじゃないですか~。船がしけているからって、無理に驚かそうとか気を遣わなくったっていいですよ」
「誰がお前何かに気を遣うか。お前は口を謹むということを知らんようだな。改心するまで休ません!」
不謹慎な船員の態度に船長は激を入れる。
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