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うな垂れたその男を周りは笑う。小馬鹿にする。
「じゃあ、お前ら次のポイントへ移動するぞ。各所へーー」
その直後、船底から殴打音が響く。耳を澄ますと静けさが戻る。微かに水の音が耳に入る。
「水漏れだ。水を外に掬い出せ。救助隊への連絡も急げ」
先程とは一転し船上が騒がしくなる。途切れることのない足音は船板を軋ませる。
二度目の殴打音が船を持ち上げる。続いて三度目の殴打音も襲う。船の浸水速度が著しくなり船尾を下に、バランスを失う。
「お前ら船首へ急げ。沈むぞ」
船長は声を荒げ排水している途中の船員共に呼び掛ける。この船に乗っている全ての乗員が船首に集まった。既に船尾は海に潜っている。
「船長、白い奴が……」
一人の船員が声を発する。指差す方向に全ての視線が集まる。水面直下の表層に全身を真っ白に染めた、人の形を為した生物が悠々と泳いでいる。
「魚人だ……」
誰かがそう言った。
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