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「あら、お帰りなさい」
「早かったですね」
宿に帰ると、イディアとフィルヴィアが大人しく待っていた。
ずっとゲームをしていたのか、二人の手には数枚のカードが握られている。
市場の一角のテラスで軽い食事を終え帰ってきたアレンは満足と言った様子で応える。
「魔物の情報は結構広まっているようだからな。噂話程度だが、聞き出せた」
「それじゃあ…」
アレンの緑の瞳が、ランプの炎に照らされて一瞬煌めいた。
「ああ。今夜にでも、殺るぞ」
仲間達は、頷く代わりにゆっくり微笑む。
しかし。
「えぇぇ、今夜かよ。せっかく豆がこんなにあるってのに」
「今夜はパーティかと思って高級なお茶も仕入れたのに」
「急がなくてもいいじゃないですか。魔物は毎晩出るそうですし」
「あのな、お前ら。善は急げって言うだろ。……ん?」
何かつっかかる。
何故フィルヴィアが毎晩出ることを知っている。
「……まさかお前ら、魔物の情報知ってて俺に黙ってたな……?」
「あーあ、ばれちゃったよ」
「フィル、失言よ」
「あはは、でもどうせばれることでしたし」
わからない。どうして情報を隠す必要があったのか、隠したところで意味はあったのか、仲間達の行動が意味不明でわからない。そして自分がなぜ悔しがっているのかもわからない。
ただ、自分のこの様を見たかっただけだろうと思うと余計腹立たしい。
アレンはわなわなと肩を震わせたが、怒りのぶつけ所がないため、溜め息で全てを吐き出した。
「まあ、やるなら早く済ませちゃいましょ。帰ったらパーティよ」
「パーティって話はいつから出てきたんだ……」
「聞いた話だと、魔物は痩せた女のような姿をしていて赤ん坊食うんだろ?」
「女に弱い男が居なくて好都合だったわね」
「いくらなんでも魔物に惑わされはしねーよ」
「水辺での出没が多いらしい。フィル、見張りを」
「もうしてあります」
そう言った直後のこと、フィルヴィアの葡萄色の瞳が虚空を強く睨んだ。
「アレンさん」
その声音は糸を張ったように緊張している。
「──出ましたよ」
アレンを始めとする三人は、椅子を鳴らして立ち上がった。
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