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「──キアローレ」
水を打ったような静寂が夜風さえも堰き止める。
その刹那、沈黙を保っていた街が真昼の如く照らし出された。
その暖色の光に、整然と積み上げられたレンガの継ぎ目さえも明々と照らし出される。
アレンの金の髪が、魔力を孕んだ風に扇がれて不規則に揺れる。
髪の金にも瞳の緑にも緋い光が踊り、三色が滅茶苦茶に混じりあうその姿は、見る者を抽象画でも眺めているような気分にさせた。
尾がアレンの頭蓋にのめり込む寸前で、魔物が爆風に吹き飛ばされる。
無様に転がり、状況を把握していないままそれは顔を上げた。
その虚ろな瞳孔に映った、鮮やかな緋色。
闇夜を切り裂く、炎の柱。
煉獄の炎のように猛々しく、またそれは夕焼けの陽のように美しい。
「──アレン」
炎の中から、雷鳴にも似た低い声が響いた。
陽炎の中に長身の影が顕れ、揺らめきながら言葉を続ける。
「……もう少し早く喚べと、何度も言っているはずだ」
抑揚の無い声に混じる、怒りと呆れ、それと少しの諦め。
アレンは悪戯を責められた子供のように呻く。
「……別に遅くもなかっただろ、お前なら、」
アレンは拗ねたように言い訳を始めたが、見下ろしている影の嘆息が聞こえたため強制的に終了となった。
「……確かにお前が喚べば、駆けつけることは出来るがな」
その先の続きはなかった。
言われなくとも、「手遅れになってからでは遅い」と戒められていることはわかる。
その続きを言わず、代わりに影は炎の中から腕を伸ばす。
引き締まった長い腕は、アレンの頭を軽く掴み、引き寄せた。
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