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大体の国は、大きく三つに分かれる。
一つは町人の住む住宅街。
一つは商人や貴族の住む屋敷街。
一つは貧民や孤児の群がる貧民窟。
「……ここが…レイシアの貧民街…」
アレンは半ば呆然と呟いた。
河に添って歩き続けてきた彼らの眼前に広がるのは、都市国家レイシアナードのスラム街。
レイシアナードは、王城とその城下街を囲むように高い障壁が築かれている。
そして、その壁外には身寄りや家を持たない人間が中へと流れ込む運河の水を求めて集まってくる。
壁の中から出る食料廃棄物が彼らを生かしていることもまた事実だった。
壁の中が裕福な国ほど、それを囲む貧民街は貧しい。
なるほど、それも納得出来る。
生きているか死んでいるか判らない犬が当たり前のように転がり、倒れている人間は干からびて枯木と区別がつかないほどだ。
街全体に汚臭が漂い、温い風が吹く度に砂塵と共に風下へゆるりと広がってゆく。
多少見当たる小屋も木々も崩れかけていた。
「……アレン……」
今まで見たことのない街の様子に、イディアが戸惑ってアレンのマントの裾を軽く掴んだ。
初めての雰囲気の街だということには、アレンも変わりはない。
だが、自身には街の現状を前にこれといった感情が浮かんでくることはなかった。
人間として憂うべき事実だが、それを嘆く感情さえも当然の様に持ち合わせていない。
かける言葉もなく、アレンは瞼を震わせてからイディアの頭に慰めるように手を乗せてみる。
「本当にここに魔物が出んのか?」
黒曜の瞳をせわしなく動かして、ヨウスケは街を見回す。
飄々としているが、ヨウスケもまた良い気分ではないに違いない。
「…さすがに風も汚れていますね」
整った眉を不快気に歪ませて、最後に来たフィルヴィアも足を止めて呟く。
もとから不思議な色彩の葡萄色の瞳には様々な感情が映り、複雑に光っていた。
仲間達の暗い声を一通り聞いたアレンは、エメラルドの瞳を濁して片足を踏み出す。
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