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「わっ」
踏み出そうとした途端、腹部に小さな衝撃とそれと同時のくぐもった悲鳴が聞こえて、アレンは目を落とした。
十歳ほどだろうか
はねぎみの茶髪を短く切ってあり、その下に見える大きな薄い黒の瞳は負けん気が強そうに、真っ直ぐで輝いている。
一瞬の静寂ののち、アレンは逸速く状況を理解して口を開いた。
「…大丈夫か」
「っ謝れ!」
衝突してきた少年が、噛みつかんばかりの勢いで突然吠えた。
声変わりもしていない甲高い声が耳に刺さる。
「ぶつかっといて謝らないなんて、レイギのなってないやつだな!」
「………は…?」
アレンは一転、状況を全く理解できずに目を丸くした。
無理もない。
ぶつかっておいて謝れとは何事だ。
「いいか!これからはちゃんと前向いて歩けよな!!」
茫然とするアレンに子供とは思えない強烈かつ古典的な捨て台詞を投げ捨て、少年は駆けて行った。
子供らしいすばしっこさで、すぐに少年の姿は見えなくなる。
「…すげー奴だな、さっきの」
「本当に。アレンに喧嘩売ったわよ」
「とんだ命知らずですが、ここではあれが普通なんでしょうね」
嵐が去って落ち着いた様子で賛嘆なのか誹謗なのか判断できないないことを口々に言い合う仲間達の後ろで、アレンが静かに声を上げた。
「金が取られた」
三人は瞠目して振り返る。
半分は、あの一瞬でアレンから金銭を盗んだ少年への尊敬で。
半分は、なぜ金を取られて、他人事のように落ち着いた顔をしているんだというアレンへの呆れに似た畏敬で。
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