第2章 純

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「…フィルヴィア、奴の居場所を」 「僕ですか」 フィルヴィアは苦笑したが、それは即座に崩れ落ちることになる。 「不満なら俺が殺るが」 「やります、やりますから」 不穏に背後から炎を立ち上らせるアレンを宥め、フィルヴィアは胸元に手を添えた。 そして、瞼を伏せて徐に口を開く。 「──樹神[シルフィーム]」 ざわりと。 声と同時に、ほぼ葉の無い木々の枝が揺れる。 軽く閉じられた指から淡い翠の光が漏れ、清廉な風が吹き抜けた。 フィルヴィアの長い髪を撫でるようにして、風は街へ広がっていく。 樹神[シルフィーム]、 フィルヴィアの従魔、 風を操る樹の精霊。 契約を結んだ時から、ヨウスケの鵺と同じように、道具に宿っている。 その道具がフィルヴィアの持つ石だ。 陽光を透かす若葉を彷彿とさせる、淡い濁緑の色。 一切研磨はされず原石の形を留めたままの様子も、角ばった木の幹を思わせる。 フィルヴィアはこれを、紐に通して常に胸に掛けている。 実は樹神とは女神というのだが、フィルヴィアはその女神が宿る石をいつも胸に抱いている……と考えられなくもない。 風が舞い戻り、一層にフィルヴィアの髪を靡かせる。 耳を澄ませていた彼は、瞼を落としたまま呟いた。 「……壁から離れた西の端…小さな小屋に向かって走っているようです」 瞼の裏に映るのか、彼はいつも情景を見聞きしたように説く。 実際にその場を駆ける樹神からの情報が、映像としてフィルヴィアに送られてきているらしい。 「だとよ、アレン。じゃあさっそく…」 「……待ってください」 了解を伝えようとしたヨウスケの言葉を、フィルヴィアが遮る。 彼は目を閉じたまま、不可解だというように眉を寄せた。 「……銅の板…?…風見鶏…かもしれません」 「風見鶏?小屋に付いてんのか?」 「…そんなの…どうしてついてるの?」 ヨウスケとイディアが率直な疑問を口にした。 確かに、枯木と土が大半を占める地域には、風見鶏などという金属の板はどう考えても不釣り合いだ。 「西の端、風見鶏の小屋…だな」 一人、仲間達の疑問など意にも介さない様子でエメラルドの瞳を剣呑に光らせ、アレンが駆け出す。 「アレン!?」 「本当…、短気だよな…」 ヨウスケの呆れの声を背に受けるアレンの姿はその内にもどんどん小さくなっていく。 表情に出さなかっただけで、腹の内には相当の怒りを隠していたらしい。
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