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「ミラ」
狭く薄暗い部屋に声変わりもしていない高い少年の声が響いた。
その声に反応して、粗末なベットに横たわり上半身のみを起こした幼い少女が振り返る。
「兄ちゃん、お帰り」
ミラと呼ばれた少女は、兄を認識すると嬉しそうに瞳を輝かせた。
透き通った瞳はしかし、少年の方へ正確には向けられていない。
そんな妹を少年は、目を細めて優しく見つめる。
少女のヴェールのかかった栗色の髪は肩のあたりで切り揃えられていて、瞳は少年と同じ薄い黒。
九歳ほどの少年に対して六歳ほどだろうか。まだまだ親に甘えたい盛りだろうが、二人の他に小屋に人間はいなかった。
今現在小屋にいないのではなく、小屋で生活している痕跡がない、という意味で。
「ミラ、今日はパンが食えるぞ」
子供らしく無邪気な笑みを浮かべて、少年が少女の方へと歩を進めようとした、
その時
「俺の金でか」
少年の襟首が、ぐいと引っ張られた。
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