20人が本棚に入れています
本棚に追加
突然の背後からの声と首元の衝撃に、少年は一瞬表情を固まらせる。
「っっっう、うわぁあああああ!!!??」
アレンは驚愕に飛び上がる少年を睥睨し、襟首を引き寄せて彼の手に持たれた金銭入れを取り上げる。
「っあぁあ!何すんだよ!泥棒!!」
「泥棒はお前だろう。これは俺の金だ」
襟首を放した途端に食ってかかってきそうな勢いで喚き始めた少年に、アレンは冷然と返す。
「アレンなんか大人気ないなー…」
「…児童虐待に見えるわね…」
「まあアレンさんって意外と子供ですから」
後から来た仲間達が口々に呆れの声を漏らす。
フィルヴィアが笑ったが、慰めにもフォローにもなっていない。
「アレン、パンくらい食わせてやればー?」
「出来ないな」
横目で呟くヨウスケに、アレンはすました顔で即答する。
アレンはそのまま、腕を組んで冷ややかに少年を見下ろした。
「飢えている子供はこいつらの他にも山ほどいる。パンをやれば恨まれるのは俺だけじゃないぞ」
アレンの言葉に少年は唇を噛んで押し黙る。
俯いた少年を一瞥して、アレンは踵を返した。
「……金を取り戻したなら用はない。行くぞ」
マントを翻して踵を返し、躊躇なく歩いていくアレンをヨウスケとフィルヴィアが追う。
出ていく間際、イディアが謝罪する代わりのように少年の茶色の髪を優しく撫でていった。
少年は、泣きそうな目をして肩越しに妹を返り見る。
少女はただ、澄んだ瞳を一度瞼の裏に隠してから、首を傾げただけだった。
慰めも謝罪の言葉も無駄な気がして、イディアは結局何も言わずに小屋をあとにした。
最初のコメントを投稿しよう!