第2章 純

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-4- 障壁の中に建てられた国は、たった数年で先進国へと成り上がった大都市である。 気候と土地にも恵まれ、農業に工業に栄えている。 そして、レイシアで忘れてはならないのは、神を帰依することで政治が成り立っている巨大な信仰国ということだ。 「お前等、少し部屋を出てくれるか」 レイシアの城下町の一角、 小さな宿屋にアレン達は泊まっている。 主人は気の良い人物なのだが、唯一イディアだけは店の看板が傾いているがさつさがどうしても気に入らないらしく不服の言葉を漏らしていた。 「従魔を喚ぶのですか?」 「ああ」 アレンは呟きがてら、夕陽の射し込む窓から外を見下ろした。 町の一角といっても、宿屋の前の道には人通りが絶えることはない。 魔物とは関わりの無い町人達に従魔を見られなどしたら、下手な騒動になりかねない。 いくら人に似ていようとも、魔力の漏出は防げないだろう。 そうなると、ほとんどを本能で生きている飼い犬や家畜などが魔力を感じ取ってしまう可能性もある。 その場合も同じ事だ。 木の壁で遮り切れるものでもないが、部屋の中に喚び出すのが得策だ。 キアも戦闘時でなければ少しはあの過激さを抑えてくれるだろう。 その場合、この狭い部屋にキアが現れると人口はもちろん増える。 長身、しかも頑として表情を変えない一人分が増えるのだ。 かなりの圧力である。 つまり、町中でキアを呼ぶ際に仲間達を部屋から外に出すのはキアの意思とそれを汲み取った仲間達の配慮、 そして、何よりも仲間達の意思が反映されているのだ。 「じゃ、俺等はまた町でも散策してきますか」 「…悪いな」 「いいのよ、良い料理屋探しておくわ」 「キアさんなら、何かわかっているかもしれませんし」 アレンは仲間達の言葉に小さく頷く。 しかし、キアは自分の中にある形の無い記号を言葉にするのが極端に下手なのだ。 色を決められた絵を描くために具材はあるのに、筆を取って画にすることが出来ないように。 果たして、求める答えは得られるだろうか。 ……その前に会話が成立するだろうか。
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