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閉まった扉の方を向いたまま、アレンは小さく息を吐いた。
自分以外誰もいなくなった部屋には、予想以上にそれは大きく響き、また予想以上に虚しく消えていった。
「キア」
アレンの声に、腕を組んで壁に寄りかかったキアが顕現する。
基本的に戦闘のない場合、彼はアレンも知らない何処かへ出掛けているようで気配も感じない。
だが、宿に入ってからはアレンもそれとなく微弱な気配を感じていた。
一声喚べば瞬時に駆けつけるが、それ以外は何処にいるかわからない。アレンの従魔はそんな気儘な性格だ。
「今日の子供」
「ああ」
アレンが文章として言い切らないうちに、キアが短く応える。
「魔力は感じられた」
「……ならば、あの子供が」
キアはしかし、浅く首を振る。
そして、視線を静かに降ろした。
「子供は人間だ。そして、その裏に潜むモノも……魔物ではない」
「…な…、…じゃあ……」
アレンは瞠目した。
意味がわからない。
人間の子供。魔力を持った魔物でないモノ。
ならば、その魔力を持つモノとは一体。
キアは答えずに、窓際へと目を移す。
アレンも釣られて窓の外を見遣る。
硝子を通して、眩い光が目を刺し貫く。
町並みは夕焼けに燃えて、太陽は沈む間際の最期の光を鮮烈に放っていた。
アレンは横目で己が従魔を盗み見る。
炎を具現したような緋い髪は夕陽の赤にさらに燃え上がり、
山端に沈む間際の太陽の色をした瞳は、視線の先にある本物の太陽の光を一筋も漏らさずに映していた。
相変わらず無表情には変わりなかったが、
──瞳が優しいのは、きっと暖かな光を映しているからだ。
アレンはそう思いながら、一日の最期を見届けた。
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