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「……それで俺達は再びここに来たと」
狭い部屋でアレンは不機嫌に呟く。
アレンの棘のある言葉を諌めるようにヨウスケが小突いてきた。
アレンは仕方なさそうに嘆息して、口を閉ざす。
うんざりだった。
先伸ばしにしようと街の散策をしたというのに、なぜこうも早くこんな展開になってしまったのか。
一方の少年は泣きそうな顔をして小さくなっている。
古びた椅子に腰かけて、膝の上で握りしめた拳は小刻みに震えていた。
「……兄ちゃん」
奥に横たわり、上半身だけ起こしている幼い少女が兄を呼ぶ。
澄んだ瞳は今は瞼の下だ。
ミラは、栗色の髪をふわりと揺らして首を傾げた。
「だれか、きているの?」
四人は目を見張った。
自分達は少女の目の届かない所には決していない。
瞼を開けば簡単に視界に捉えられるだろう。
疑問の渦巻く静寂の中、少年が口を開いた。
「……ミラは、産まれた時から目が見えない」
一同の視線が、一瞬ミラのもとへ集中した。
「……盲目……?」
アレンの問いに少年は俯き気味に頷く。
気まずげに伏せられた瞼の奥で、薄い黒の瞳が揺れていた。
その時、ミラが突然古びたベッドから飛び降りた。
そして壁を伝って、真っ直ぐとアレンに向かっていき、迷いなく、アレンに抱きつく。
腰元までしかない頭を見下ろして、アレンがピシリと固まった。
ヨウスケが小さく吹き出したのは気に入らなかったが、それどころではない。
引き剥がすことも出来ず、ミラも頑として離れない。
「お兄さん、おおきいのね」
ミラが顔を上げて微笑んだ。
寝たきりの病弱な少女だと思っていたが、その笑顔は強く、無邪気なものだった。
直後、アレンの右後方に慣れしたしんだ魔力が降り立った。
抑制された魔力は何の力も持たない人間には感じとれない。
感じとれないはずなのだが。
ミラの大きな瞳がアレンの右後方に向けられた。
そして少女は
「お兄さん、そのひとだあれ?」
無垢な瞳で、問いかけた。
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