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アレンは困惑を隠せず再び瞠目した。
「……その人……?」
「お兄さんのうしろにたってるわ」
ヨウスケだろうか、と一瞬その考えが脳裏を過った。
だが、ヨウスケは左にいる。
その事実が、即座に考えを打ち消した。
盲目の少女の黒い瞳は、真っ直ぐと今降りたったキアの方へ向けられている。
「……キアが…、見えるのか……?」
「きあ?そのひと、キアというの?」
ミラが名前を唇に乗せた、その時。
唐突に抑制されていた魔力が熱風となって、狭い部屋にぶわりと広がった。
次の瞬間には、無表情な顔にあからさまな不機嫌さを浮かべたキアがそこに立っていた。
アレン以外の人間は息を呑んで身を固くする。
誰一人として、予想出来なかった展開とビリビリと肌に感じる緊張に口を開くことが出来ない。
明らかに怒気を宿す瞳で、キアは目下の小さな少女を睨めつける。
ミラは彼しか見えていないだろう目をぱちくりと瞬かせて、呆然と世界に現れた赤い影を見上げていた。
我に返ったアレンは焦ってキアを止めにかかる。
「キア、突然出てくるな」
しかしキアは首を振る。
自らの魔力で翻る緋色の髪が不規則に揺れた。
彼は、少女を気にしながらもアレンに視線を移す。
「……名を」
「は……?」
言い返されるとは思っていなかったのか、アレンは今度こそ間の抜けた声を漏らした。
キアは逡巡し、結局そのまま口をつぐんで頭を振った。
なんでもない、ということらしい。
(……なんなんだ……)
幾つもの言葉が競り上がったが、アレンはなんとかそれを飲み込む。
「ともかくだ、相手は子供だ。抑えろ」
アレンの言葉にキアはミラをもう一度冷たく一瞥して、大人しく姿を消した。
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