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「アレンに触るな」
部屋に鋭い声が響いた。
二人が声の方を見れば、今腕を掴んでいる少年より、少し背の高い子供がよろめきながら立ち上がったところだった。
その子供は、黒い髪を揺らしてゆらりと顔を上げる。
そして、
燃えるような紅い眼で、眼前の影を睨んだ。
「へえ、そっちが正解だったか」
徒人なら怯んでしまうほどの鋭い眼光だったが、男は反対に嬉しそうに頬を緩めた。
そして、恐れることなく前進し、その紅眼の子供の腕を無造作に掴む。
子供は一切、抵抗しなかった。
「っ兄さん……!」
もう一人の子供が喘息の混ざる声で叫ぶ。
今まで虚ろだった瞳は、初めて見開かれ、それまで以上に絶望に染まっていた。
「アレン」
紅眼の子が押し静めるように言う。
やけに、その声が響いた気がした。
「生きるんだ」
紅い眼の少年──兄は、笑っていた。
穏やかな微笑を浮かべたまま、最後に弟の名をただ一度呼んだ。
「信じて、闘って、生きのびろ。アレン」
背中が遠くなって行く。
追いかけたいのに、体が鈍く痛んで、起き上がれない。
足に力が入らない。
涙さえも浮かばない絶望に駆り立てられ、取り残された少年は一人、声にならない声で叫んだ。
『お願い』
『ひとりにしないで』
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