第1章 始

3/21
前へ
/91ページ
次へ
「アレンに触るな」 部屋に鋭い声が響いた。 二人が声の方を見れば、今腕を掴んでいる少年より、少し背の高い子供がよろめきながら立ち上がったところだった。 その子供は、黒い髪を揺らしてゆらりと顔を上げる。 そして、 燃えるような紅い眼で、眼前の影を睨んだ。 「へえ、そっちが正解だったか」 徒人なら怯んでしまうほどの鋭い眼光だったが、男は反対に嬉しそうに頬を緩めた。 そして、恐れることなく前進し、その紅眼の子供の腕を無造作に掴む。 子供は一切、抵抗しなかった。 「っ兄さん……!」 もう一人の子供が喘息の混ざる声で叫ぶ。 今まで虚ろだった瞳は、初めて見開かれ、それまで以上に絶望に染まっていた。 「アレン」 紅眼の子が押し静めるように言う。 やけに、その声が響いた気がした。 「生きるんだ」 紅い眼の少年──兄は、笑っていた。 穏やかな微笑を浮かべたまま、最後に弟の名をただ一度呼んだ。 「信じて、闘って、生きのびろ。アレン」 背中が遠くなって行く。 追いかけたいのに、体が鈍く痛んで、起き上がれない。 足に力が入らない。 涙さえも浮かばない絶望に駆り立てられ、取り残された少年は一人、声にならない声で叫んだ。 『お願い』 『ひとりにしないで』
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加