第1章 始

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アレンは数年前のとある事件で母親を亡くし、兄も連れ去られたまま消息は知れない。 身寄りのなくなったアレンを引き取ったのが、ヨウスケの家であるミナツカ家。 ヨウスケを含めミナツカの家の住人は黒髪に黒曜の瞳。 聞けば遥か東の海に浮かぶ島国の出身だそうで、ヨウスケが六歳の時に彼の母親と二人でアレン達の住む町に越してきた。 歳が同じということもあって、アレンとヨウスケは兄弟のように育ったということである。 一方イディアは、ミナツカ家の近くに住んでいる商人の娘で、今はアレン達と同じ十六歳。 蒼い瞳に、アレンのそれより少し透き通ったシルバーブロンドの髪を、頭の上の方で一つに結んでいる。 彼女の実家は小さな貿易会社のため、大富豪までとは決して言えない。 しかし、やはり商人の娘。午後三時に必ずティータイムを取るという、貴族のお嬢様のような日課がある。 それに比べ、フィルと呼ばれているフィルヴィアは、国でも指折りの貴族、サーネット家の出身。 髪には暗い茶がかかっていて、その背中に流れる長い髪は、項の辺りで緩く結われている。 そして、熟した葡萄の色の瞳はいつも穏やかに優しさを灯している。 ただし彼は、側室の三男坊という、なんとも微妙な位置に産まれたため、親からの期待はないに等しいとか。 つまり、ほぼ自由気ままに生きられるということだ。 フィルヴィアは十七歳と、四人の中では一番年上なのだが、精神年齢はかなり低い。 とにもかくにも、生まれも性格もてんで様々な三人を連れて、アレンは兄を捜す旅に出た。 息も絶え絶えの幼かったアレンは、あの恐ろしい事件を、ぼんやりとしか憶えていない。 しかし、黒いマントの影が吐き出した言葉は今も尚、呪縛のように耳に貼りついている。 『陛下は、「紅月」を生け捕りにしてこいと仰っただけだから』 陛下とは、紅月とは。 そして、兄はまだ生きているのか。 一時的に生け捕りにしただけで、もう殺されているかもしれない。 しかし、どこかで兄が、自分のたった一人の兄弟が生きているように、アレンは信じて前に進むしかなかった。
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