一章 なんて暖かな君のぬくもり

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 黄昏時。太陽の残り香も消え去って、辺りは、薄暗い闇に満たされていた。  夜の訪れとともに、町は姿を変える。  日の光のもとで見れば、流麗な造りの建物も、夜の闇を被ればただの不気味で巨大な影の塊。大通りですら人の息づく気配はなく、ところどころ昼の世界に置き去りにされた店から、濁った橙の灯りが落ちるのみだ。  広場の時計塔が、にぶく重たい笑い声を響かせた。  人にとって、夜は恐ろしいものだ。いつ何時、闇の中から手が伸びてきて、ひきずりこまれないとも限らない。  そんな夜の中を、二つの人影が進んでいた。  ひとりは青年。まばゆいばかりの金髪を、肩口のあたりで遊ばせている。長めの前髪からのぞく瞳は切れ長で、流し目のひとつでもよこされたら、女は皆まいってしまいそうな美形だ。全身を黒のマントで覆っている。なまじ肌が白いせいか、闇の中を歩いていると、手と顔だけが浮いているように見えた。  ひとりは少女。まっすぐで長い銀色の髪をしている。年頃は、まだ十をふたつみっつすぎたばかりだろうか。大きなすみれ色の瞳に、薔薇色の頬というあどけない顔立ちだ。傍らを行く青年の腕に、自分の腕をからませるようにして歩いている。白いうさぎの毛の縁飾りがついた桃色のコートが、足の動きに合わせてふわりと揺れた。  青年の名は、クライヴ。  少女の名は、レイン。  昼の大通りを歩けば、まず人目をひきそうな組み合わせだ。兄妹というにはあまりにも似ていなくて、なんで共にいるのか想像もつかない。  なにかひどく、訳ありな様子が見るだけでぷんぷん匂ってくる。  それは、今からまさに夜が濃くなろうとしているこの時間帯、二人の足が町の宿場街ではなくて、外に向かっていることからも明らかだった。
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