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夜の闇に紛れるようにして、二人は大通りを進んでいた。
昼に忘れられた店のショーウィンドウから、わびしげに光が漏れている。
ふいに少女が立ち止まった。腕を組んでいたクライヴは、つられて足を止める。
「どうした?」
連れの少女は、濁った橙色の灯りを落とす店先に、釘付けになっていた。
こじゃれた古道具屋だ。ショーウィンドウは白いレースのカーテンに縁取られ、落ち着いた雰囲気の飾り棚に品物が展示されている。
「あのお人形、かわいい」
レインの目を奪ったのは、その品物の一つだった。精巧な作りのビスクドールが、ガラス玉の青い目で、こちらを見つめていた。
「欲しいのか?」
人形を見つめる少女の熱い視線が、口にしなくても心の内を物語っていた。
「じゃあ、買ってやる」
クライヴはこともなげに言った。
「いいの!?」
レインが頬に朱を散らして、クライヴを見上げる。期待に輝いたその顔は、しかし、すぐに浮かないものになった。
「……でも、やっぱりいらない」
「なぜ?」
財布の心配などいらなかった。レインが欲しいと思った。それだけで、クライヴが人形を買う理由は充分なのに、その人形を気に入った張本人は首をふる。
「旅の邪魔になるから」
いこ、と、レインはクライヴをうながして、店先から離れた。
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