レヴィアタンの隠し城

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しかし、今まさにこの瞬間、彼らの目的は達成された。生娘を喰らうという伝説の古城に囚われた姫君の救出。 その本人を目の前にして、後は無事に脱出を成功させ国に送り届ければ、今回の依頼は完了する。 が、スペンサーは不審な思いを拭えない。目の当たりにした姫の姿、名こそ違えど、それは彼が知る人物に似すぎている。 加えて、穏やかではない仕掛けがいくつも施された古城の中で、見るからにか弱い姫がなぜ無傷でいられたのか。 ラッセルの攻撃を打ち消した力もまた疑問。数え挙げれば、多くの謎が彼女を包んでいる。 「恥だァ?」 ベラの言葉に眉を潜め、ラッセルは鼻を鳴らしてため息を漏らす。 「血迷い癖のある三流探し屋と、この俺みてぇな海賊に協力を求めた時点で、そんな発言は意味をもたねぇぞ?」 「黙れ! 貴様ら海賊は姫様に近寄るな! あたしはまだ……テースでの一件を許したつもりはない!」 「まァ、いいさ。こっちの望む謝礼さえ払ってくれりゃ、俺は満足だからな」 「謝礼? 一体何の……」 「その辺にしとけよ二人共」 会話の流れがスペンサーにとって悪い方向へ傾き始めたのを察してか、彼はそそくさと二人の間に割って入る。 ジルバ王国が海賊に恩赦を出すという契約はスペンサーの嘘でしかない。ベラとは打ち合わせを行っていない為、ラッセルにバレてしまう危険性があるのだ。 「無事に姫を見つけたことだし、ここから出る方法を探し出すぞ。またバラバラになっちまう可能性も高ぇんだ。注意しとけよ?」 ベラを説得し、剣を納めさせたスペンサーは、先程よりも近くでレイラの姿を確認する。 やはり、容姿はルナそのものだった。声は少し高いものの、瞳の色までもが完全に同じだ。 「何がここを出る……だ。デッドクロスを殺して船を引き揚げるまでは、俺ァここから離れねぇ」 「好きにしろ」 「感謝のひとつもしたらどうなんだ? てめぇがその姫を抱えてられんのァ、俺達の協力があってのもんだろ」 「待て待て、言い争いは時間の無駄だ。出る方法さえ見つけてしまえば、デッドクロスも船もなんとかなる。脱出法を探すのが先だ」 三人の会話を聞きながら、レイラはとある気配に気づく。 「邪の十字架……」 その小さなつぶやきを聴きとれた者は本人を除いて、一人もいなかった。 ―――――
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