8636人が本棚に入れています
本棚に追加
/634ページ
―――――
「……ずいぶんと落ち着いたな」
激しく息を切らし、額に滲む汗を拭うトニーは、城の構造変化が停止していることを悟った。
先程までは慌ただしく動き回っていた部屋や罠も、今は静かに配置された場所で止まっている。
彼がたどり着いたのは、広い空間に何もない、殺風景な場所だ。
あるものと言えば各部位当てに床に散らばった、白銀の鎧が一人分。
その近くには巨大な扉。それがトニーの気配を感じとるように、静かに軋みながら開いていく。
「……?」
再び構造の変化が始まることを警戒しつつ、扉へと歩み寄る。向かって右からの位置にいるので、奥に何があるかは角度的に見えない。
″解宝″での副作用により、トニーの動きは鈍かった。全身を巡る痛みは健在どころか、絶好調だ。
「お邪魔しますっと」
入る前に、外側へ開き切った扉に背を預け、顔だけを出して中を確認。
ところが急激な速さで扉は閉まり、
「いッ……!?」
巻き込まれたトニーは強引に中へ引き込まれ、うつ伏せに倒れてうめき声をあげた。
「お前か」
そして、顔をあげる前に目を見開く。聞こえた声は古城の中に巣食う、全ての不穏を纏ったもの。
「……マジ……かよ」
自然と笑みがこぼれ、立ち上がりつつ苦笑をこぼす。
見えるのは協会を模したような空間。巨大な十字架に磔にされた異形な何かと、黄金の逆十字を背負うデッドクロス。
「この古城には、俺やお前らの思っていたものより重大な真実が眠っていた」
逆さの十字架を両手に抱え、肩に担いで言葉を投げる。
「これ以上、お前達に時間を裂くわけにはいかん」
言いながら肩の十字架から左手を放し、ゆっくりと静かに挙げる。
するとそれを合図として、古城は構造変化を再開した。トニーの背後にあった扉は、せりあがった一枚の硝子の壁に隠される。
それを肩越しに見た後、トニーは顔をしかめて別の出口を探すが、
「今をもって、この古城は俺の支配下となった。構造も意のまま……お前達に逃げ場はない」
デッドクロスの絶望的な発言が、彼の行動を中断させる。
最初のコメントを投稿しよう!