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豊かな黒髪を片側に流し、白いうなじが露わになっている。
胸元でたゆたう黒髪。
物思いに沈む佇まいは静謐なのに妖艶だ。
夕焼けが差し込む窓辺にひっそりと立ち竦むリリコを見つけ、クロードはアトリエの入口に思わず立ち尽くした。
彼女の頬を静かに伝い落ちる雫が、茜色に染まる。
それにも気づかぬ様子でじっと佇むばかりの彼女が何を思っているのか、考えるまでもない。
彼女にあんな表情をさせるのは、奴しかいないと苦々しく奥歯を噛み締めた。
ギリッと音が鳴るほどの力に自分でハッとする。
……まったく。
こんな時でさえ、冷静さをどこかに保ってしまう自分がやるせない。
溜め息を堪えて、クロードは開っぱなしのドアをノックした。
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