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「だったら返してよ……」
絞り出すような声に、今にもキーをタッチしようとしていた手を止める。
画面の中の彼女は、じっとこちらを見詰めていた。
「私の心も体も、何もかもあなたに囚われてるのに……! そんなこと言うなら、あなたに会う前の私に戻して!! 」
目の前の彼女は、見せたことのない激情をもって叫んだ。
赤い頬に滝のような涙がこぼれ落ちる。
夕焼けが紅く照らされていたパリの部屋は、いつの間にか菫色に染められ、彼女の白い顔が淡く浮かび上がっていた。
「……それができないなら、早くあなたの元へ……何もかも忘れられないの。あなたの手も、息遣いまでが離れなくて……もう苦しい……」
リリコは悲痛な顔を、ついに両手で覆った。
肩が小刻みに震えている。
……この美しい人は、自分を思って泣いているのか。
アムスタッドは、あまりの衝撃に唇を震わせて、息を止めた。
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