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でも、全然信じてなかったのなんて、きっとあなたはお見通しだったのね。
薄っぺらい体をしていたあなたは、いつの間にか自らを鍛え、古武道では師範を取得するまでになっていた。
体質なのか痩せてはいるけれど、その逞しく鍛え抜かれた胸板を初めて目にしてそっと目を伏せる。
「あなたは嘘つきね」
あなたはそっと窺うように視線を寄越す。
「私にはもっと相応しい人がいると言ったわ」
ほんの小さい頃のたわいないやりとりなんて覚えているはずもないのに、思わず口をついた。
「恐れながら」
だからそう言われたときハッとしたの。
「恐れながら……あなたには相応しい方がもっと他にいらっしゃるのかもしれません」
あの時の様に、何を考えてるんだか私には欠片も見せてくれないポーカーフェイスで言われたんじゃ、泣きたくなる。
「それでも、私はあなたが欲しかった……許してくださいますか」
「許すも何も……私がお願いしたんじゃない」
私は拗ねるように顔を逸らす。
あなたの前じゃ、私はあの頃と変わらない。
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