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水の中故、声は無かった。だが、観客も全員が理解していた。
投げ飛ばされた大の体は、水の抵抗を受けながらも、為す術なく自らが作り出した水牢の外へ弾き出され、そして、壁に着地した。
ドンッ、と言う音の少し後、ズルリ、とその体は地面に着いた。
「ゴハァッ、ハァ、ハァ」
水を吐き出し、息を整える。
相手が死んでしまっては、英奈の負けである。大の息があることを確認し、審判が叫ぶ。
「勝者、小泉英奈選手!」
刹那、会場全体が大きな歓声に包まれ、実況の射命丸も興奮冷めやらぬ声で盛大な祝辞と表彰式の案内をする。
そんな中、小泉英機は、医務室からその様子を静かに眺めていた。妻、鈴仙は、娘の勝利を喜び、静かにするべき医務室で大いにはしゃぎ、永琳に注意を受けているにも関わらず、彼は静かだった。
(会場に、霊夢の姿が見えなかった。それに、白蓮や神子も。それに、只の小規模な大会にしちゃ異様な盛り上がりで、少々違和感がある……)
裏で何か起きていたのかもな、と彼は思案して、まだ後ろで騒いでいる愛しき妻を諫めるため、華々しい表彰式の様子が映る画面に背を向けた。
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