第一幕 裏渋谷

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 道玄坂を渋谷駅に向かって三分の一ほど下った辺りで、沙紀はその匂いに気が付いた。ほんのうっすらと宙に漂い残る白い煙は、煙草のようでいて微妙に異なる匂いをさせていた。  煙草の煙より甘ったるく、それでいて喉の粘膜を内側からざらつかせるような不快な匂い。沙紀は自分の腕をしっかり握りしめている高校の級友に言った。 「この匂い、脱法ハーブってやつじゃないの?」 「沙紀もそう思う?」  沙紀よりやや背が高い、ストレートロングの黒髪の級友、岡崎加奈が今は自分より小さく見えた。周りの怪しげな雰囲気にすっかり怯えているようだ。自分のショートカットの髪にまとわりつく様に漂って来る煙を手で払いのけながら沙紀は加奈に言ってみた。 「こりゃ確かに女子高生が一人で歩ける感じじゃないね。加奈、通り道変えたら?」 「ここが一番大きい通りなんだよ。それでも、こんななんだよ。裏通りなんかもっと嫌だよ」  加奈は半ば泣きべそをかいているような口調で言う。沙紀も坂道と直角に交わっている小さな通りに視線をやって同意せざるを得なかった。もともと裏道一本入れば、ラブホテルやいかがわしそうな店が多数ある場所だった。
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