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翌日の昼過ぎ、観音寺一家の面々は東京証券取引所に近い、丸い形の敷地の公園で待ち合わせた。念のため竜が、毎日沙紀を自宅前から送り迎えするようになっていた。沙紀が直接襲われる危険があったからだ。
まあ、と言ってもママさんは竜に「あんたが弾除けになって、その隙に沙紀ちゃんは交番に駆け込みな」とあからさまに言って、竜を憮然とさせたが。
ママさんの店でテレビの画面に飛びついた沙紀の様子を思い出しながら、竜は沙紀がロープで囲まれた四角い一角の中にある石のタイルを一個ずつ足の裏で踏みながらキャッキャしている様子を眺めていた。
あの時沙紀はすぐに自分のノートパソコンを取り出して、どこかの情報ポータルサイトへアクセスした。そこには各上場企業の株価がグラフで表示されていて、ドン・ロシナンテの株価の半年の推移も一目で分かるようになっていた。
「やっぱり。みんな、ここを見て」
ドン・ロシナンテの株価は二月中旬に襲撃騒ぎが始まって以降、急激に下がっていた。そして一際激しく落ち込んだタイミングが、沙紀が巻き込まれた渋谷店の車爆弾事件だった。
だが、警視庁がドン・ロシナンテの特別警備を発表した日に、株価は急上昇に転じ、襲撃事件発生前の株価水準に戻るのは時間の問題のようだった。
「そりゃ、あんな物騒な騒ぎに何度も見舞われりゃ、株も下がるよな」
雅が言い、すぐにママさんが核心を衝いた。
「沙紀ちゃんの想像通りだとすりゃ、空売りだね」
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