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長らくリーダーを失っていた魔王軍はこの日のために準備を怠ってはいなかったようで、魔王復活とほぼ同時に行動を開始した。
部下に恵まれた魔王は順調に侵略を進め、遂に私を拐い出した。
娘を拐われた王は逆上して、交渉の予知なく、いきなり勇者チームを編成、奪還に乗り出した。
聞いたところによると、敵四天王たちは、エラく弱かったような気がするそうだ。
勇者様はそれに気づいていたのかもしれない。
辛くも倒したように見せかけて、彼らは死んでいったのだとか。
伝承による姿、技を持たない四天王なら気づきそうなものだが、敵側には精神系の呪術を使う者もいるという。
…まんまと騙されたってワケね。
しかも騙したことを相手に気づかせない。
流石は魔族。
人間の使う借り物の魔法とは違う。
手足のように魔法を使える魔族にとって、人間の魔法は遊びにすぎなかった。
加えて今は継ぐ者もいない。
負けたようなものだった。
そんな中で私のところまで辿りつけたのは一重に、各地の遺跡を見逃さなかったからだろう。
…それに。
賢竜の知恵もある。
それで騙し騙し何とかやってこれた。
一人の死人も出さず、魔王の前まで辿りつき、勇者様は考えたはずだ。
「戦わずにすむならそれが一番だ」
地図に向かって吐いてみるとまるで本当に勇者様がそこにいるように感じられた。
普通に考えれば甘い。
甘ちゃんの考えだ。
そう都合よくことが運ぶワケがない。
だが、運んだ。
想定以上の展開に持ち込めた。
結果彼は私の身代わりになり、水晶漬けにされてしまった。
数で言えば被害は最小限に抑えられた。
…でも。
彼には読めない展開がここに一つだけあった。
…彼のいない世界なんて。
私には必要なかった
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