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そうしている内に、家の歴史が書かれた書物の背表紙の暗号に気付いた少年にとっては、あんな部屋は入るのに両親と使用人の目を掻い潜るだけの少しめんどくさい部屋でしかない。
あの夜、あそこの前を誰も通らないことは既にリサーチ済みで、隠し部屋に入ることは少年のこのちょっとした冒険、探検ごっこの締めくくりになるはずだったのだ。
入って、ひとしきり中を掻き乱して達成感と満足感、充実感を味わえたなら、後は見つかって叱られたとしてもどうだってよかった。
だから少年は、隠し部屋に入り、それが部屋ではなくて地下へと続く隠し通路であると気付いた時に引き返すべきだったのだ。
ここは自分の来ていいところではないと、気付くべきだったのだ。
だが、彼は元々旺盛だった好奇心と興奮状態がかけ合わさったことで全く冷静ではなかった。
少なくとも、背表紙の暗号を発見した時の彼はそこにいなかった。階段を降りて行く彼は、彼が最も嫌う、財宝を前にし思考を止め飛び付いた挙句、罠や裏切りで命を落とす愚かな冒険者や探検家と同じ。
そう、彼は裏切られた。
今まで絶大な尊敬の念を抱いていた父に、無償の愛を与えてくれていた母に。
「初めまして。お兄様……と呼んでもよろしいですか?」
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