“好”の音―スクノオト―

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 初めて君を見つけた日。雨に煙っていて、まるで幻かと思ったんだ。  古本屋街の古本屋祭りで僕は君を目に止めた。そりゃそうさ。霧雨とはいえ、傘も差さずに小走りに駅へ向かう姿は、僕以外の人だって目にする。  だけど、僕はその他大勢とは違うんだ。雨に濡れて水分を含んだ肩までの髪が、小走りで人混みをすり抜ける度に揺れて、項が見える。  その白さに、僕は強烈に目を奪われた。解るかい?黒いカーテンの向こうからチラチラと見える清々しい白――  誰も気付かない妖しく立ち込める艶やかさに、僕は惹き付けられた。僕がいる通りの反対側に脇目も振らずに走り行く君。  誰も君の魅力に気付かないままで居て欲しい。と願いながら、僕は来た道を引き返し始めた。  それが――出会い。  僕は駅の改札口で君に追い付いて、さぁどうしよう。と悩んだ。  何かきっかけになる事が無いだろうか。そう悩むうちに、君は改札の向こう側に消え失せて、君を見つけた幸運も消えてしまった。
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