喫茶店『コスモス』

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 ジリリリリリリリ…  そんな中、お店の電話が鳴った。  「お電話ありがとうございます。喫茶店『コスモス』店長のハルです。」  春樹は黒電話の受話器を耳にあてた。電話は和菓子屋の店長さんからだった。新人のアルバイトが新商品の桜餅を届ける途中に道に迷ってしまい、到着が一時間程遅れるということだった。春樹は電話を切ると、お店のすべてのメニューの『桜餅』と書いている上に『準備中』というシールを張り付けた。  春樹が時計をみると開店五分前。急いでさっきリュックで持ってきた食器を綺麗に食器棚へ並べ、玄関にかかっている”Close” の文字をひっくり返し、”Open”にすると、紅茶のポットやマグカップを拭き始めた。  今日最初のお客様はお店の常連さんである老夫婦。七十代後半ぐらいの仲の良い二人はちぃももを撫でると、扉を開けて中に入った。  「いらっしゃいませ、おはようございます。」  ちぃももを先頭に、老夫婦は会釈をしながら入ってきた。ちぃももはいつも老夫婦が座る机の前で止まり、振り返って老夫婦を見た。それは、『ここがいつもの席ですよ、ここでいいですか?』と言っているようだった。  「ちぃももちゃん、ありがとう。ここに座らせてもらうわ。」  お婆さんがそう言うと、ちぃももは満足したようにまた玄関の方へと歩いて行った。春樹は新商品の説明を簡単にしながらお冷とおしぼりを老夫婦の前に置いた。  「私、このスープご飯にしようかしら。」  お婆さんはメニューを指さしながら言った。お爺さんも同じものを頼み、食後にダージリンティを追加した。  春樹はカウンターの中に入るとスープご飯を作り始めた。梅とカツオの混ぜご飯をお湯で柔らかくして一人前用の土鍋に入れる。そこに昆布出汁のスープを注ぎ、上にトマト、湯通ししたブロッコリーと菜の花をのせてサーモンを飾る。それを茶色いトレーに置き、横にツナサラダの小鉢、箸、スプーンをのせた。店内にはスープご飯の良い香りが広がっている。  スープご飯を目の前にした老夫婦は『美味しそうね。』と言いながら、それを一口、口に運んだ。そして笑顔で『昆布の出汁がよく出ていて美味しいわ。』といった。春樹は会釈をしてカウンターに戻った。
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