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春樹がカウンターに桜茶を置くと、光里は『素敵…。』と一言いってそれをすすった。
「うわぁ、すごく美味しいですね、これ。桜も浮かんでて春にぴったり!」
光里はにっこり笑って言った。
「お店に置いてある写真、店長さんが撮ったものですか?」
カウンター席の一番近くに置いてある写真を指さして言った。
「そうですよ、写真を撮るのが趣味で、定休日はカメラ持って歩いています。」
春樹はそう言いながらカウンター下の机から赤い小さなポケットアルバムを取り出して光里に渡した。光里は受け取るとアルバムの最初のページを開いた。そこには『お散歩 ~Part 1~』と書かれていて、次のページからはたくさんの写真が貼ってあった。 青空の写真だったり桜の写真だったり、店の前で日向ぼっこをしているちぃももの写真だったり…。光里は次々とアルバムをめくっていき、最後まで見終わるとアルバムを春樹に返した。
「ありがとうございます、とても綺麗で感動しました。」
春樹は元の場所にアルバムをしまうと、優しく微笑んだ。光里は腕時計を見るとガタッと立ち上がり、残りの桜茶を飲んだ。
「いけない!バイトの途中だった!あ、店長さんご馳走様でした。おいくらですか?」
光里はポケットから小銭入れを取り出した。
「あ、お金はいいですよ。それじゃあまた来週お待ちしてます。」
春樹が言うと、光里はまたペコッとお辞儀をして慌ててお店を飛び出した。春樹は残った食器を下げて、さっき光里が届けた桜餅を一つ取り出して食べた。程好い餡子の甘みが口の中でほわっと広がり、桜の香りが漂った。春樹は満足そうに頷いて、メニューに張り付けた『準備中』のシールをはがして回った。
あっという間に閉店時間になり、春樹は “Open” の看板を “Close” にしてお店の掃除を始めた。今日届けてもらった桜餅は一つを残してすべて売れてしまった。桜のシフォンケーキも二切だけ残り、新商品の売れ行きは好調だった。春樹は次の日の仕込みを終わらせて余ったケーキと桜餅を包んでリュックに入れ、ちぃももを抱えてお店を出た。
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