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「いいですね、どこかいいお店知っていますか?この辺りはあまり詳しくなくて…。」
春樹が言うと、光里はイタリアンや和食、中華のお店など色々候補を出したが、結局イタリアンのお店に行くことになった。
そのイタリアンのお店は公園から少し離れたところにあり、知る人ぞ知るレストランということだった。光里は母親とよくこのお店でお昼を食べているらしく、すでに常連客になっていた。
狭い路地裏の住宅地の間にそのレストランはあった。確かに『知る人ぞ知る』である。お店の前には小さなメニュー表が置いてあり、それがなければレストランがあることには多分気が付かないだろう。光里が扉を押して中に入ると、白いメイド服のようなエプロンをした叔母さんが奥から出てきた。
「あら、戸部さん。いらっしゃい。今日は彼氏さんとご一緒なの?」
明るい声をかけた叔母さんは、春樹のことをのぞきながら言った。すると、光里は『ち、違いますよ!バイト先のお客様です!』と、白い肌を赤らめながら言った。叔母さんは『冗談よ!』と笑いながら言った。
光里と春樹は一番奥のカウンター席に座った。そのカウンターの上には赤いポピーの咲く花瓶が置いてあった。
「ポピーですか、綺麗ですね。」
春樹は叔母さんに声をかけた。すると叔母さんは嬉しそうに笑いながら、お盆にのせたお冷を机の上に置いた。
「そうなのよ、昨日主人が珍しく買ってきてくれたの!昨日は私達の結婚記念日だったからのよ~きっと。まぁ、私が好きなポピーはオレンジ色なんだけど…主人は色まで気にしない性格みたいね~。プロポーズの時はオレンジ色のポピーくれたのよ!もう、憶えてないのかしら…。」
叔母さんは少し悲しそうに笑いながら言って、二人の注文をとると厨房へ向かった。
「ここのパスタ、すっごく美味しいんですよ!夫婦で自営業をしてて、ぜーんぶ手作りなんです!」
光里はそう言ってお冷を一口飲んだ。春樹は『楽しみです。』と言って、再び赤いポピーに目をやった。そしてお店の中をぐるーっと見回すと、ところどころに様々な花や景色の写真が飾ってあった。
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