オレンジ色のポピー

5/7
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
 「そういえば、店長さんのお店にもたくさん写真ありますよね。」  春樹が写真を見ているのに気付いた光里は、思い出したように言った。春樹は微笑んで『はい。』と言った。  しばらくすると、叔母さんがパスタをお盆にのせて運んできた。  「お待ち同様、今日は主人が留守だから私が作ったのよ~。たくさん食べてね!」  叔母さんはウインクをしてお皿を二人の前に置いた。春樹が注文したのは光里おすすめのツナときのこのクリームパスタ。光里は新商品のアボカドとチーズのクリームパスタである。  「いただきまーす!」  光里は手を合わせてそう言うと、パスタを食べ始めた。  「美味しい!」  光里は幸せそうに微笑んだ。春樹は光里の幸せそうな横顔を懐かしそうに見つめたが、ハッと我に返ると自分もパスタを食べ始めた。  パスタを食べ終わった二人は飲み物を注文した。叔母さんはアイスティとオレンジジュースをカウンターに置いて、自分はホットコーヒーを淹れて二人の向かいに座った。  「ほら、これ見て。」  そう言って叔母さんが取り出したのは何枚かの写真だった。それはこのお店の夫婦の若い頃の写真だった。どの写真にもオレンジ色のポピーを持った奥さんと奥さんの肩を優しく抱くご主人が写っていた。  「これ、結婚記念日の写真よ。ここ何年かはもう撮ってないんだけど…結婚したての頃は毎年毎年オレンジ色のポピーをプレゼントしてくれたの。もう結婚して三十年ぐらい経つけど、昨日は何年かぶりにもらったのよ。なんていったって、あの人ね、何年か前に癌で入院したのよ。五~六年ぐらいずーっと入院してて、去年やっと退院できたの。」  「そうだったんですか…。じゃあ、その間は叔母さん一人でお店やってたの?」  光里は写真を返しながら言った。  「そうよ。主人はお店をたたもうとしたんだけど…ほら、お金のこともあるし、二人で作ったお店でしょ?私自身失くしたくなかったし…。あの人も病気と闘ってるんだから、私も頑張らなくちゃと思ってね!」  叔母さんは写真を大事そうにしまいながら言った。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!