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「これは?これは何のお花?このピンクのお花、すーっごく可愛い!」
そう言ったのは、黄色い花柄のワンピースを着た小さな女の子だった。長い黒髪を二つに結わき、前髪を赤いお花のヘアピンでとめている。白い肌にピンク色の頬、真っ黒の瞳をキラキラさせながら少女が指をさしたのはピンク色のコスモス。辺り一面、絨毯のように咲いているコスモスは、太陽の光を浴びて一層輝いている。
その隣にいるのは、少女よりも少し背の低い少年だった。さらさらした黒髪に優しい垂れ目、少年は微笑んだ。
「これはコスモス。花言葉は、『乙女の真心』。○○ちゃんにピッタリだね。」
そう少年が言うと、少女は嬉しそうににっこりと笑った。そして上機嫌な時の少女の癖である鼻歌を歌い始めた。幼稚園で習った『春の願い』という曲である。
少女はこの歌が大好きだった。冬から春に変わり、花や虫や鳥が一斉に歌いだす…というような歌詞で、少し季節がずれた今でも、少女は機嫌が良い時はいつも歌っていた。
二人はコスモス畑の前にある小さなベンチに座り、少年が持ってきたふわふわのシフォンケーキを食べた。
「これ、僕のお父さんが作ったんだ。」
少年は、美味しそうにシフォンケーキを頬張る少女に向かって言った。少女は『○○君のパパはすごいんだね!こんなにふわふわで甘くて美味しいケーキ、私食べたことない!』と言って笑った。『なんだか、ピクニックみたいだね。』と続けて言うと、少年もうなずいた。
『○○ちゃんは、ケーキ好き?』という少年の質問に、少女は大きく頷いた。
「ケーキ大好き!だって、ケーキを食べると幸せな気持ちになるんだもん!」
そう言いながら、少女はシフォンケーキの最後の一口を口に放り込んだ。そして、『美味しい!』 というように、ギュッと目を瞑って、それを最後まで味わってから飲み込んだ。
「じゃあ、いつか僕が○○ちゃんが幸せになれるようなケーキを沢山作るよ。」
少年はケーキを包んでいた布を畳んでポケットにしまった。
それから何日かして、ある日の夕暮れ時。同じ場所に二人はいた。しかし彼らはどこか悲しそうで、お互いに向き合って俯いていた。少女の目からは涙が次から次へと零れている。少年は、自分は泣くまいと堪えているようではあるが、目には沢山の涙が溜まっていた。
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