オレンジ色のポピー

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 「素直に言葉にするのが照れくさかったんじゃないですか?だから、花言葉という手段で奥さんに自分の“感謝”の気持ちを伝えたんですよ。この、真っ赤なポピーの花で。」  春樹はちょこんと赤いポピーの花を触った。  「そんな意味があったなんて、知らなかったわ。ちょっと感動しちゃった。」  叔母さんはエプロンの裾で涙をぬぐった。  「あの人、昔から口数が少なくて…感謝の言葉なんて言われたこともないのよ。そうだったのね…、ありがとう。」 叔母さんは春樹に向かって微笑んだ。春樹はペコッと頭を下げた。そこに、ガチャっと音がして扉が開き、ご主人が帰ってきた。 そして、エプロンで涙を拭う妻、その向かいにいる光里と春樹を見てから妻が腕に抱えている植物図鑑に目をやった。そしてギクッとした表情を浮かべた。  「お帰りなさい、あなた!」  叔母さんは笑顔でそう言って、主人の鞄を受け取った。主人はちょっと照れたように頭を掻いて『ただいま。』とつぶやいた。  光里と春樹はこの謎を解いたということで叔母さんが食事代を無料にしてくれ、そのままお店を出た。  「すごいですね、店長さん。叔父さんの謎をあんなに簡単に解いちゃうなんて!」  駅に向かう帰り道、光里はニコニコしながら今日の出来事を思い返していた。  「いえ…でも、ありがとうございます。偶然植物の話だったから…。」  春樹は照れ臭そうに鼻の頭を掻いた。光里はニコッと笑った。  二人は色んな話をしながら駅までゆっくり歩いた。  「今日はありがとうございました!お昼まで一緒に食べてもらっちゃって。」  そう言って、光里はペコッとお辞儀をした。春樹も会釈をした。  「こちらこそ。美味しいパスタも食べられたし、散歩も楽しかったし。いつでもお店に遊びに来て下さいね。」  春樹は微笑んで右手を差し出した。光里もニコッと笑って握手をした。  春樹は帰宅してすぐにベッドに入って眠りに落ちた
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