素敵なピクニック

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 次の週の土曜日、開店時間の十分前に赤い車がお店の前に止まった。和菓子屋『鶯』の店員、戸部光里である。毎週土曜日のみ販売する桜餅を運んできた。  「おはようございます!今日は間に合いましたー!」  光里は元気よく扉を開けて、桜餅の入った発泡スチロールをカウンターに置いた。春樹は『おはようございます。』と言ってコーヒーを一杯淹れた。  「どうぞ。」  いつもの場所に桜餅をしまった光里に春樹は言った。光里はカウンター席に座って、『いただきます。』と言って一口飲んだ。  「店長さん、またアルバム見せて下さい!私、店長さんが撮った写真を見るの好きです!」   光里が言うと、春樹はカウンターの下から黄色いポケットアルバムを取り出して光里に渡した。一ページ目には『お散歩 ~Part 2~』と書いてあった。光里は一枚一枚ページを捲っていった。  「戸部さんは、写真を撮ったことありますか?」  春樹の問いに、光里は首を横に振った。  「ないです。写真を見たり絵を見たりするのは好きなんですけど…実際に撮ったり書いたりはセンスがないみたいでっ…。」  光里はちょっと恥ずかしそうに言った。  「そうなんですか…。よかったら、今度撮ってみませんか?写真を見てる姿がとても楽しそうだったんで…。」  今度はカウンターの下から一眼レフのカメラを取り出した。  「えっ…いや、嬉しいんんですけど…ほんとに触ったこともないですよ?」  光里はカメラには触れずに言った。  「かまいませんよ、この近くに公園がるので今度の月曜日にでもどうでしょう?」  春樹は壁にかかっているカレンダーを見ながら言った。光里はうなずき、今度の月曜日、四月十日にこのお店で二人は待ち合わせをした。  新商品の売り上げはまだまだ好調だった。中でも桜のシフォンケーキとサーモンと野菜のスープご飯は人気で、一日に四十食を超えている日もあった。忙しい日は一人でキッチンからフロントまで手が回らない時もある。  『一人でやるのには限界があるかな…。』  心の中でそんなことをつぶやいた。お客さんの数も段々と増えているし、このままずっと一人で続けられるとはとても思えなかった。しかし自分から和を広げていくのが得意ではない春樹は、どうしてもアルバイトを雇う気にはなれない。
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