素敵なピクニック

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 「…さん、店長さーん?」  ボーっとしている春樹の前のカウンター席には、常連さんである叔父さん二人が座っていた。一人は髭面の優しそうなダンディ風の叔父さんで、お洒落なジャケットを羽織っている。名前は平野 茂(ひらの しげる)。もう一人はぽっちゃり体系で眼鏡をかけていて、ポロシャツを着ている。名前は大木 宗太(おおき そうた)。大木は春樹の顔の前で手を振り、『大丈夫かーい?』と、声をかけた。  「あ、すみません。ちょっと考え事をしてて…。」  春樹は慌てて二人の空になったカップに、おかわりのコーヒーを注ぎ足した。この二人は写真を通じて出会ったらしく、今では毎週土曜日に一緒に写真を撮りに出かけている。春樹も写真を趣味としているので、二人と話をする時間は春樹にとっても楽しい時間だった。今日も二人はカメラを手に話をしている。  「それでね、店長さん。実は再来月に写真展を開く予定なんだ。まぁ、叔父さん達みたいな年寄ばっかりが展示する小さいものだが、よかったら店長さんもどうかな?」  そう言ったのはぽっちゃり体系の大木である。平野も鞄の中から一枚の広告を取り出して春樹の方に向けてカウンターに置いた。  春樹は『失礼します。』と言って、その広告を手にした。そこには『写真展 テーマ:日常』と書いてある。場所は、先日行った樹林公園の中にあるイベントホールで、展示は六月の中旬に三日間連続で行われる。  「面白そうですね、僕みたいな初心者が参加して大丈夫なんですか?」  「もちろんだよ、私達だって好きで写真をやっているだけで、プロでもなんでもないんだ。それを展示という形で共有したい者の集まりだ。どうだい?」  二人はもう答えがわかっているかのように尋ねた。春樹はそれを察したのか、こくりとうなずいて、『楽しみです。』と言った。
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