素敵なピクニック

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 次の月曜日、春樹は喫茶店『コスモス』に早めに着いた。自転車をお店の前に止め、リュックを下ろした。今日はいつもの一眼レフカメラだけではなく、フィルムカメラとコンパクトのデジタルカメラも持ってきていた。光里はまだ着いておらず、春樹はお店の裏にある小さな畑を見に行った。  そこには何日か前にいた白い猫がまた日向ぼっこをしていた。しかし、春樹が来るとこの前と同じように木の陰に隠れてしまい、そこから春樹の様子をうかがっている。春樹は店の鍵を開けて、同じ器にミルクを注いで置いてあげた。すると白猫は警戒しながらもミルクを飲み始めた。  「そんなに警戒しなくてもいいんだけどな。」  春樹は猫がミルクを飲み終わるのを見守ると、また新しく注いでやった。そこへ、車の止まる音がした。春樹が表に行くと、赤い車がお店の前に止まっていて、光里がお店の中を覗いていた。宅配の時に着るスーツでもなく、ジョギングの時に着るトレーニングウエアでもない。今日の光里はどこにでもいる大学生の女の子の服装だった。ロングの青いスカートに薄いピンク色のパーカーを羽織り、長い黒髪を二つに結わいている。  「戸部さん?」  春樹は、自分の存在に気が付かない彼女に声をかけた。  「ひゃあっ!」  まさか後ろから声をかけられるとは思っていなかったのだろう、拍子抜けた声をあげて振り返った光里は、いつもよりしっかりと化粧をしているようだった。  「あ、すみません。おはようございます。」  春樹はちょっと申し訳なさそうに笑った。  「お、おはようございます!く、車はどうすれば…?」  まだ落ち着かない光里に、春樹は車を店の隣にある一台分の駐車スペースに止めるように指示をした。光里は言われたように車を止めて、春樹も自転車をその隣に止めた。そして二人は公園に向かって歩き出した。  「わざわざありがとうございます、こんな方まで。」  春樹の言葉にぶんぶんと首を振る光里。  「私も月曜日は空いているので…それに、写真撮ってみたかったし。」  これは本当のようだった。たくさん歩くことを予想したのか、光里はヒールのないパンプスを履いていたし、バックも邪魔にならないようになのかショルダーバックを下げていた。さりげなく準備は万全の彼女を見て、春樹は内心とても感心していた。
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