素敵なピクニック

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 その後二人はまたカメラを持って公園を歩き始めた。光里は相変わらず花の写真を多く撮っている。春樹は途中で『ちょっと待って。』と言って、道の端っこにしゃがんだ。  「すみません、フィルムがきれちゃって。」  そう言って春樹は手際よくフィルムを巻き取り、中から使用済みのフィルムを取り出した。光里は春樹の隣にしゃがんでそれに見入った。  「それ、難しいですか?」  光里が聞くと、春樹は『やってみますか?』と言ってカメラを光里に渡した。春樹は光里の後ろから手を回して新しいフィルムを入れた。  「ここの穴をここにはめて…ここをこうして…。」  春樹は光里の手を包むようにしてフィルムをセットした。春樹は何も考えていないようだったが、光里の方は大変だった。男友達はいるものの、付き合った経験はないので、こんなに近く男性と距離をとったことはもちろんない。心臓はバクバクで、顔まで真っ赤なのが鏡を見なくてもわかった。  『近い近い近い!し、心臓の音聞こえてないかな!?早く離れてー!!』  心の中でそう叫んでいた。  「よし、完了!」  春樹はそう言って光里から離れた。光里は内心ほっとした。これ以上は心臓がもたないと思っていたからである。光里は真っ赤になった顔を春樹に見られないように振る舞った。  『店長さんは天然…。』  心の中でそう呟いて、春樹にカメラを渡そうとした。しかし春樹はそれを受け取らず、光里の首から一眼レフのデジタルカメラを取った。  「今度は交換。こっちのカメラは自分でピントを合わせて撮るものです。覗いてみて下さい。」  春樹の言う通りにファインダー、つまりカメラの覗き窓を覗き込んだ。ファインダーからみた向こう側はぼやけていた。  「ぼやけてますよね?それはピントが合っていないので、ここで調節します。」  光里は一度ファインダーから顔を上げて、春樹が指さす絞りの部分を指さした。光里はもう一度ファインダーを覗いて絞りをくるくる回した。すると、ピントが少しずつ合ってきた。  「あ、合った!なるほどなるほど…。」  光里は夢中になって絞りを回した。  「あ、フィルムの枚数は三十六枚ですからね。」  春樹の言葉にうなずいた光里は花壇の花を一枚撮った。春樹はさっきまで光里が使っていた方のカメラを首から下げて写真を撮り始めた。
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