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ある秋のある日。
秋風が心地よく流れる過ごし易い夕暮れ時、 一人の青年が溢れるように咲くコスモス畑の前に立っていた。
ピンク、赤、白など様々な色のコスモスが美しく絨毯のように咲いている。それらは風が吹く度に美しい花びらを宙に舞いあげた。青年は誰かを探すように辺りを見回したが、近くには誰もいないようだった。
その青年は、どことなく十五年前にここにいた少年に似ている。
そう、黄色いワンピースを着た小さい少女と一緒にいた少年である。背はもちろん伸び、180㎝ほどはあるように見える。顔つきも見違えるほど大人っぽくなっているが、変わらないのはサラサラな黒髪と優しげな垂れ目だった。
二十歳になった彼は…そう、大人になった彼はこの場所に戻って来た。大好きだった少女との十五年前の約束を果たすために。
彼は木のベンチに腰掛け、ぼんやりと空を見上げた。空には白いふわふわした雲が浮いていて、その近くを飛行機が通った。青年は思い出したようにポケットから赤いお花のヘアピンを取り出した。彼はそれを空に透かしてじっと見つめた。
それから何時間が経っただろうか…空は夕焼け色がだんだんと暗さを増し、月が見え始めた。青年はまだ同じベンチに座っていた。
「もう、憶えてないか…。」
青年はそうつぶやき、立ち上がった。星が輝き始めた空の下を青年は歩き始めた。
残されたコスモスは、ちょっぴり悲しそうに見えた。
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