喫茶店『コスモス』

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 このお店の隣には、とても広いコスモス畑がある。秋になると、ピンク、赤、白など様々な色のコスモスが辺り一面絨毯のように広がるのである。そして更にその隣には広い公園も設置されている。そこにはジョギングコースやテニスコート、バスケットのゴールだけでなく、アスレチックや広い野原まであり、また公園の中心には大きな噴水まである。休日などは、子供連れの家族などでにぎわっている。  先程の女性達はホットコーヒーを三つ頼み、持っていた企業のパンフレットを出し始めた。黄色い表紙のパンフレットには『明るい未来を!』と大きく書かれていて、ページの最初には社長らしい人の写真と細かい文字がびっしりと書いてあった。  春樹はコーヒーを淹れて三人の机に運び、『ごゆっくりどうぞ。』と微笑んだ。三人は軽く頭を下げて、パンフレットについて話し始めた。  それから何組かのお客さんが入ってきて、カウンターで新聞を広げたり主婦らしい女性達が雑談をしたりと店内は少しにぎわっていた。この喫茶店の営業時間は午前八時から午後七時まで。閉店時間間際までいたお客さんも店内の時計を見ると、帰る準備を始めた。  春樹はマグカップやスプーンを洗い、最後のお客さんを見送った後、店内の掃除や翌日の準備、新商品の別メニューの配置に取り掛かった。 三月限定メニューの紙をはがし、そこに四月限定メニューの紙を貼っていく。張替が終わると、今度はテーブルクロスを若草色のものに取り換えた。全ての用意を終え、お店を出たのは八時。春樹はリュックを背負い、自転車にまたがった。  春樹の一人暮らしの家までは自転車で約十五分。お店を出てコスモス畑とは反対方向に自転車を進める。商店街を通り抜け、駅前を通り、人が少なくなった通りを更に真っ直ぐ行き、左側にある小さな茶色いアパート。  ここに住んでいるのは春樹と同じ年代の男性が多く、朝早く家を出て八時過ぎぐらいに家に着くのがほぼ毎日な春樹は、一定の人としか顔を合わすことはない。春樹の部屋は二階建てのアパートの二階にあり、一番奥がそうである。広い窓が二か所あり、一つにはベランダもついている。狭すぎることもなく、広すぎもしない。近所の人は皆静かで、特に気にすることもないので住み易い。
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