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果てしなく遠く白色の空間は広がっていた。白の背景には時折靄のようなものが浮かぶ。そこには様々な世界の景色が映像のように映っては消えていた。その靄はいくつもいくつも世界に漂っている。それを一人の少女が眺めていた。
「もうどれくらいたったのかしら?」
少女の問いに答える者はいない。
「本当ならもうおばあちゃんになってるくらいじゃないかなあ?」
仕方なく少女は裏声で自らの問いに答える。この世界は彼女以外存在していない。寂しいという感情はとうの昔に無くなってしまっているのだが、彼女は未だ他人のいる世界に未練を抱いていた。
とある靄の中の世界では複数の男女が一人の少女となにやら遊んでいる。また、とある靄には電子空間で戦争を繰り広げる兵隊たちが映っている。他にもヒーローになろうとする男の子が映る世界だったり、犯罪者を国から匿おうとする世界だったり、様々な世界のあらゆる物語が映し出されていた。
「ふん、だ」
靄に映る世界を少女が指でつつくと世界は波紋のように広がり白の世界の奥に奥に消えていった。少女はそれをぼーっと見つめていた。なにをするでもなくただこの白の世界で数多の世界を閲覧する。
それが彼女の仕事なのだ。
「いい加減飽きることにも飽きてきました。そろそろ何かおこってくれないですかね?」
と少女は心にもないことを言ってみる。この世界に何かが起こる時、それはつまりーー。
「ひゃっ!?」
突然だった。白い世界に浮かぶ靄が急速に増加し始めた。今までの靄は多くて10個ほどだった。しかし、今の今、増えたこの靄の数は、とても数えきれないほど。白い世界の背景が一面あらゆる世界の靄で埋まっていく。まるで泡のようにブクブクと。その異様な光景に最初は驚きもした少女だが、次第に悟っていく。
「そうですか……。もう私は……」
少女はゆっくりと右手を靄に伸ばす。そして右腕は靄に溶けるようにして吸い込まれていった。
「さて」
少女はなくした右腕を左腕で庇うようにして一つの世界を見つめる。
「始めましょうか」
そこには一人の青年の背中が映る。
「私の終わりを」
白い世界はバグに浸食されたように埋もれていった。
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