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負債者への連絡に使うのもすべて、使い捨てのプリペイド携帯だ。そのため、非常に足がつきにくく、警察も手が出せないのが実状だ。
おれが無理な取り立てをして、警察に目をつけられたとしても、おそらくはおれ一人が逮捕されるだけでニコニコ金融の経営にはさして支障はきたさないだろう。
事実、おれはこの業者に所属しているにもかかわらず、ここの実体をほとんどなにも知らない。知っているのは、ミゾグチただ一人だけだろう。
つまりおれは、ミゾグチにとって使い捨ての駒なのだ。
「なあにぼさっとつっ立ってんだよ。わかったら早くワタヌキにいけって」ミゾグチがしびれをきらしたように、声を低くしていった。
この男は、相手を威嚇するときに声を低くしてしゃべる癖がある。その声はとても暗く、まるで最初から本能にすり込まれていたかのような深い恐怖を感じさせた。
「はい、すいません」
それだけいって、おれは事務所をあとにした。
もっとも、事務所といっても、首の回らない負債者から買い取った名義で借りた2DKのアパートの一室だが……。
そしておれは、自家用の軽自動車に乗り込み、野山さんのアパートへと向かった。
野山恵美(のやま めぐみ)――二十代の若いシングルマザーだ。アルバイトで生計を立てながら、まだ幼い娘と二人暮らしをしている。
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