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もし、この仕事でなんの成果も得られなかったら、おれ自身もただでは済まされないだろう。 そしておれは、恐怖心に後押しされるかのようにインターホンを押した。 人差し指がインターホンのスイッチに軽く沈むと、室内に来客を知らせる軽快なメロディが小気味よく響きわたる。 この、拍子抜けするような楽しく軽快なメロディが、おれの心境などどこ吹く風といった調子で流れるたびに、深く気持ちが病んでしまう。 たのむから、こんなときに楽しいメロディなんて聞かせないでくれ。 野山恵美も、同じような思いでこのメロディを聞いているのだろうか……。 楽しいはずのメロディが悲しく感じられたとき、人は本当に気持ちが病んでしまう。 ふと、このメロディ――グリーン・グリーンが、楽しげで軽快ではあるが、悲しい歌だったことを思い出して、現実から逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。 何度もインターホンを鳴らしているが、野山恵美が動きを見せる気配はない。 だが、いるのはわかっている。部屋の中からは、赤ん坊の泣き声が聞こえるからだ。 とうとうおれはドアノブに手をのばした。 勢いよくドアを開こうとすると、鍵がかけられていて、固い錠がおれの進入をはばむのを期待していたが、そのドアは驚くほど簡単に開かれてしまった。
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