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その中で泣きわめく赤ん坊はかなり衰弱しているものの、それでも懸命に助けを求めていた。 ようやく、この作り物めいた奇妙な光景が現実のものであることを認識できると、目の前にぶら下がる首の伸びきった女性から放たれる異臭に“えづき”がこみ上げる。 おれは急いでトイレのドアを開き、胃の中身を全て便器に吐き出した。 出てくるのは全て液体ばかりだ。そういえば朝にコンビニのサンドイッチを一つ食べたきりだ。 少したって落ち着くと、水洗のレバーを大と書かれた方向に回す。すると水が流れて吐瀉物が渦を巻きながら吸い込まれていった。 鼻と喉の奥を突くような酸っぱさに、瞳に涙が滲んだ。 赤ん坊の泣き声はまだ聞こえる。いつからこうしているのだろうか。 おれは、何故か逃げ出してはいけないと思い、ワンルームの部屋に戻った。それが何故なのかは自分でもわからなかった。ただ、そこにある“何か”から目を背けてはいけない気がしたのだ。 室内に充満した淀みのある芳醇な空気に再びえづきそうになりながらも、辺りを見回してみる。 部屋はとても綺麗に片づいており――というのも、そもそも散らかるだけの物が無いのか――木製の家具は色調がライトオークに統一されていた。薄い黄緑色のカーテンは閉ざされていて、うっすらと日の光が透けている。
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