紅い眼の男

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信号機前…佇む私たち。いくら噂といっても、その店が見つからなければどうにもならない。このままだとせっかくの午後が潰れてしまう、そんなんだったら家でゴロゴロしていたい。正直気になるだけで、絶対行かなきゃいけないわけではないからね、義務じゃなく任意だからね。  そんな事を思い、私は涼花にそれを伝えた。涼花も納得。もしかしたら本当は店など無くただのでたらめだったのかもしれない。 「でたらめだったのかな…なんかショック」 「まあ噂なんてそんなものだよ」  はあ…帰ったらなにしよう、やっぱりゴロゴロ漫画でも見ようかな。あっ!そういえば好きな作家さんの小説売り出されたんだっけ。じゃあ今日は本屋さん行こうかな、丁度商店街にあるからここから近い。よし!今日は本を買いに行こう!  そして早くその本を読もう。  急に足取りが軽くなった、自分のしたいことをするのは気分がいい。楽しいことはしたもの勝ち。私自身、本などを読むのが趣味と言っていいくらい読んでいる。大抵の本なら、冒頭だけ読めば結末がわかる。だけど、私が好きな作家さんは違う。最後までハラハラドキドキさせ、胸が高まる話を書く。  そして、今日その人の新しい小説を買う。これ程浮足にあることはない。  私は心の中でにやけた。 「あっ!私本屋寄るの、涼花はこのまま帰るでしょ?」 「そうね…結局噂の文具店見つからないし、帰ることにする」  そう言い残して、涼花は小さく手を振り人ごみの中に飲み込まれていった。
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