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授業終わりのチャイムが鳴り響く教室。
教授の言葉と共に生徒達が一斉にざわめきあった。
「なつっきー!飯食いに行こうぜ」
資料や用紙を重ねる手を休める事も無く、声を掛けてきた主を見やる。
「竜司、ミッキーみたいに呼ぶな」
気にするな気にするな♪
今更だろっ
暢気に笑いながら夏輝の肩を叩く相手は、高校から一緒の友。
冗談や馬鹿な事を言い合ってきたが、夏輝の良き理解者でもある彼。
もちろん春香の入院を知る一人でもあって最近はひきり無しに夏輝へ絡む姿が見られる。
「春ちゃんが居なくて寂しかったら俺の胸で泣いてくれて構わないぜ!」
「するか、あふぉー」
「照れるなって~可愛いツンデレ夏輝ちゃん♪」
「その口を接着剤で塗りたくるぞ」
ニッコリと満面の笑みを浮かべた顔は、どこか威圧感があり…
近くに居た竜司や他の生徒を一瞬で凍らせたのは言うまでもない。
マジな顔してた!
「ごめんなさい…とても格好良いクールな夏輝様」
「うむ、それで良い」
いつの間にやら手の中にあったセメダインは蓋を開けたまま今にも役割を果たそうと、表面が乾き初めている。
後一言、余計な事を言っていたら確実に自らの口は開く事が出来なくなっていただろう。
竜司は夏輝から数歩か離れると、接着剤の蓋が閉まっていくのを確認しては胸を撫で下ろした。
そして…
ポケットへしまう様を見ては再び焦り出す。
「待てっ!それは鞄に入れておいた方が良いと思うぞ、うん!」
「あぁ…潰したらヤバイしな」
でもすぐ取り出せる様にしとかないと、な。
うっすらと悪魔の様な微笑みをした夏輝は怯える友を横目にしてはスタスタと歩き出してしまう。
「早くしないとAランチ無くなるぞ」
動く事無く銅像のように固まってしまった竜司に言い放つと、我に帰った相手は違う意味で慌て出していく。
学食でも一番人気の絶品ソースがかけてある竜田揚げ定食。
今日こそはゲットしてやると朝から張り切っていた事に、今更ながら気付いたらしい。
俺のAランチ~っ!!!
猛ダッシュで夏輝の横を駆け抜けていった竜司は、本気で必死になっていた。
「12時半…アウトだな」
ククッと喉で笑った後、食堂に着いた友のしょげた顔を想像しながら自分も早歩きで向かって行った。
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