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「留学の事だよ」
察して話を終わらせてくれれば良いのに、夏輝の思惑通りには進んでくれない竜司。
今まで自分達にとって良い方へ導いてくれていたその強い眼差しには、誤魔化す事もできず…
いや、もしかしたら無意識の内に聞いて欲しいと願っていたのかもしれない。
そして、自分を攻めて欲しかった。
「留学はしないよ。だから春香にも言ってない」
「……」
「これは俺の意思なんだ」
高校の時夢にまで見た留学。
教授から言われたのは丁度、春香が余命を受けた時と重なっていた。
本当なら叫びたい程嬉しかったのだろう。
だが、短期留学ではなく一年もこの地を離れなければいけない。
夏輝は歯を食い縛りながらも断りを入れていた。
今は行けません…
その時どんな表情をしていたのかわからないが、教授が悲しそうにしていたから余程酷い顔をしていたのだろう。
「考えておきなさい。どうしても壁に当たったら、私が道標をしてあげよう。
思う節は色々あるだろうが、若い内は沢山悩んで考えなさい」
違う道を歩もうとしていたなら、叱ってでも正してあげるから…。
大人な優しい言葉に不覚にも泣きそうになった夏輝は、心からお礼を言い教授の元を離れていった。
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