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真っ白な大きい建物。
その中に入れば慣れない薬の匂いが立ち込める。
好きになる事はないな…この場所は
そんな事を思いながらも足取りは軽く、一定のリズムを踏みながら前へ進んでいた。
一年間留学すると突然言ったらどんな顔をするだろうか。
もしかしたら勘の鋭い春香は薄々気付いているんじゃないだろうか。
色々と考えを並べ立てるが部屋へ入ると驚きのあまりに思考が一時停止していった。
夏輝はいつも通りベッドへ身を寄せる彼女を見るはずだったのに…
「何してんだよ!!!」
止まった頭を無理やり働かせながら慌てて中へ入る。
「あ、夏輝~早かったじゃない」
怒鳴り声を聞いてもケロッとしている春香は窓際にいて―
片足を窓の枠に乗せながら身を乗り出していたのだった。
外へ右手を伸ばし、その状態のまま振り返る。
「早かったじゃない…じゃねえ!」
半ば強制的に窓から降ろすと大きいため息を吐きながら呼吸を整える様が伺える。
床にストンと下ろされた春香は、少し頬を膨らましながら「何よ」と文句を言う準備をしていた。
「あっぶねぇだろうが…」
少し間違えれば落ちかねない。
そんな場所にいる春香を見ては、心臓が止まりそうな勢いであった。
だって…
「イチョウが散ってたのよ」
は…?
「イチョウ?」
春香の真意がわからなかった夏輝だったが、言われて窓を見やれば手のひらサイズの黄色い葉っぱが踊るように舞っている。
病院に来るまでの間にもイチョウの木は多く見られたが、散り始めていたとは気付かなかった辺り無意識で本題を口に出すのを躊躇っていたのだろうか。
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